福岡簡易裁判所 平成5年(ろ)242号 判決 1994年2月22日
主文
被告人を懲役二年六月に処する。
未決勾留日数中七〇日を右刑に算入する。
理由
(犯罪事実)
被告人は
第一 平成五年一一月二日午後零時二七分ころ、神戸市兵庫区平野町神戸トンネル付近を広島駅に向かって進行中の西日本旅客鉄道株式会社(代表取締役井手正敬)山陽新幹線「こだま五六七号」三号車電話コーナーにおいて、同所に備付けのテレホンカード自動販売機を所持していたドライバーでこじ開け、同会社所有の現金二万八〇〇〇円及びテレホンカード四八枚(時価合計四万八〇〇〇円相当)を窃取した
第二 同日午後一時四五分ころ、岡山市雄町小坂山トンネル付近を広島駅に向かって進行中の前記会社山陽新幹線「こだま五六九号」三号車電話コーナーにおいて、同所に備付けのテレホンカード自動販売機を前記ドライバーでこじ開けようとしたが、同列車が岡山駅に接近して同販売機付近に降車客が集まって来たため、その目的を遂げなかった
第三 同日午後二時三八分ころ、岡山県浅口郡鴨方町新倉敷駅から博多方面に向け約九キロメートル付近を新大阪駅に向かって進行中の前記会社山陽新幹線「こだま五七四号」三号車電話コーナーにおいて、同所に備付けのテレホンカード自動販売機を前記ドライバーでこじ開けて、同会社所有の現金二万七〇〇〇円を窃取した
第四 同日午後三時三五分ころ、岡山市穴甘小坂山トンネル付近を新大阪駅に向かって進行中の前記会社山陽新幹線「こだま五七六号」三号車電話コーナーにおいて、同所に備付けのテレホンカード自動販売機を前記ドライバーでこじ開けて同会社所有の現金五万円及びテレホンカード一〇〇枚(時価合計一〇万円相当)を窃取した
第五 同日午後四時四二分ころ、兵庫県明石市小久保西明石駅付近を新大阪駅に向かって進行中の前記会社山陽新幹線「こだま五七八号」三号車電話コーナーにおいて、同所に備付けのテレホンカード自動販売機を前記ドライバーでこじ開けて同会社所有の現金六万五〇〇〇円及びテレホンカード三一枚(時価合計三万一〇〇〇円相当)を窃取した
第六 同月八日午後零時四七分ころ、神戸市中央区葺合町の六甲トンネル付近を広島駅に向かって進行中の前記会社山陽新幹線「こだま五六九号」三号車電話コーナーにおいて、同所に備付けのテレホンカード自動販売機を前記ドライバーでこじ開けて、同会社所有の現金七万九〇〇〇円及びテレホンカード二〇枚(時価合計二万円相当)を窃取した
ものである。
(証拠)<省略>
(事実認定についての補足説明)
弁護人は、判示各事実(判示第二の事実を除く)につき、被告人が本件各テレホンカードの取り出し行為は窃盗に該当せず、現金窃盗の不可罰的事後行為である旨主張する。
しかしながら、被告人の供述によれば、新幹線の電話コーナーに設置されたテレホンカード自動販売機の蓋をドライバーでこじ開けて、中の紙幣を窃取し、次にテレホンカードも取り出そうとしたがその方法が分からなかったので、いったん蓋を閉め、所持していた千円札及び窃取した千円札を使用して次々とカードを取り出し、再び蓋を開けて、カード取り出しの為に入れた紙幣を全部取得したことが認められる。
およそ窃盗罪においては現金を窃取した後、その現金をどのように使用しようとも、新たな法益を侵害しない限りその行為は窃盗罪に包括的に評価され、可罰性がない(通説、判例)。しかし本件において被告人はカード収得の為に挿入した紙幣を、再度、蓋を開けて全部回収し、被害者に実害を生ぜしめているのであるから新たな法益を侵害したこととなり、結局被告人のテレホンカード収得行為は窃盗罪該当すると解される。
(法令の適用)
罰条 第一・第三ないし第六の行為刑法二三五条
第二の行為 同法二四三条、二三五条
併合罪加重 同法四五条前段、四七条本文、一〇条(重い第四の罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入 同法二一条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法一八一条一項ただし書
(裁判官 石川章)